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時計タンパク質CRY2のリン酸化に依存した分解制御の生理的役割

Mol. Cell. Biol., 34, 4464-4473 (2014)

 深田吉孝教授と平野有沙博士は、ほ乳類の概日時計(サーカディアンクロック)中枢における中心因子であるCRY2タンパク質のリン酸化修飾の重要性を個体レベルで示しました。本研究には、CRY2リン酸化部位の遺伝子改変マウス(理研CDBとの共同研究)を用い、リン酸化部位の変異がマウスの行動リズムに及ぼす影響と、その分子メカニズムを明らかにしました。

 概日時計の発振系は、いくつかの時計遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループに基づいています。ほ乳類では、Cryptochrome (CRY) タンパク質は、E-boxを介した時計遺伝子の転写活性化を強力に阻害することにより、概日時計の発振において中枢的な役割を果たします。当研究室においては、マウスCRY2が二段階のリン酸化を受けて分解されることを見出しました (図1)。CRY2のC末端領域に位置する557番目のセリン残基(Ser557)はDYRK1Aによってリン酸化され、このSer557リン酸化CRY2はGSK-3βによりさらにSer553がリン酸化されてプロテアソーム系を介した分解へと導かれます [Harada et al., JBC (2005); Kurabayashi et al., MCB (2010)] 。しかし、このリン酸化依存的なCRY2の分解制御が時計発振にどのように寄与しているかこれまで不明でした。そこで、CRY2の二段階リン酸化が概日時計において果たす役割に個体レベルで迫るため、一次リン酸化部位であるSer557にAla変異(S557A変異)を導入して、リン酸化修飾が起こらない変異マウスを作製しました (図1)。このマウスの胎児繊維芽細胞を用いてCRY2タンパク質の安定性を調べた結果、S557A変異型CRY2の分解速度は野生型CRY2に比べて有意に遅くなることが明らかになりました。次にマウスの輪回し行動を測定したところ、恒暗条件下において変異マウスは野生型マウスに比べて長周期の行動リズムを示しました (図2)。さらに、肝臓切片を用いて肝臓時計のリズムを測定したところ、時計中枢と同様に抹消時計においても周期の延長が観察されました。一方、肝臓における時計タンパク質と時計遺伝子の発現プロファイルを解析した結果、変異マウスにおいてCRY2タンパク質の発現が顕著に増加しました。興味深いことに、CRY2の結合パートナーであるPER2の核内量も変異マウスにおいて増加することを発見しました。変異マウスにおいて、CRY2の分解異常によりCRY2タンパク質量が細胞質で増加することによりCRY2-PER2抑制因子複合体の核移行が促進され複合体が核内に過剰蓄積したと考えられます。核内に過剰蓄積したCRY2-PER2は、E-boxで制御された時計遺伝子の発現低下をもたらし、次のサイクルへの移行を遅延させることにより周期が延長します。つまり、生体内においてCRY2のSer557リン酸化はCRY2の分解を促進することにより、CRY2タンパク質量の適切な日周変動を生み出し概日時計の周期維持と時計遺伝子の発現調節に寄与すると考えられました (図3)。



図1. CRY2の二段階リン酸化による分解制御



図2. CRY2-S557Aノックインマウスの輪まわし行動測定
野生型マウスは恒暗条件下で24時間より短い行動リズム周期を示す(右上のアクトグラム図)一方、変異型マウスは行動リズムの周期が延長した(右下)。


図3. CRY2のリン酸化依存的な分解によるCRY2-PER2複合体の制御
野生型マウスにおいては、CRY2は細胞質内で適切に分解され、その発現量が精密に制御されている。一方、変異型マウスではCRY2が過剰に蓄積し、その結果、核内においてCRY2-PER2複合体が増加し時計遺伝子の発現や時計周期の異常をもたらす。