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ゼブラフィッシュ視細胞の光感度調節におけるオプシンキナーゼ(GRK)活性の重要性

J. Physiol., 589(Pt 9), 2321-48, 2011

 脊椎動物の網膜には桿体と錐体という2種類の視細胞が存在し(図1)、各々の生理的役割に応じて異なる光応答特性を示します。薄明視を担う桿体は、錐体に比べて光刺激に対する感度が高く、一方、昼間視を担う錐体は興奮からの回復が速いことが知られています。桿体が高感度であることはより暗い所で機能するために有利であり、錐体が高時間分解能であることは明るい所で素早い物の動きを捉えることに適していると考えられます。
 桿体と錐体の光応答特性の違いは、桿体と錐体に発現する光シグナル伝達蛋白質のサブタイプの違いに由来すると考えられ、私達はその候補としてG蛋白質受容体キナーゼ(GRK)に着目して解析してきました。光によって活性化された光受容分子オプシンはGRKによるリン酸化を受け不活性化へと導かれます。実際に、桿体オプシンキナーゼであるGRK1 のノックアウトマウスの桿体は、光に対する応答強度が増大し、応答持続時間が長くなることから、光応答の回復過程においてGRKが重要な役割を果たすことが示されています。私達はこれまでに、ゼブラフィッシュの錐体オプシンキナーゼGRK7-1のin vitroにおける活性(Vmax)が、桿体オプシンキナーゼGRK1Aより約30倍も高いことを明らかにしました(Wada et al., 2006)。このことから、桿体と錐体におけるGRK活性の違いが両者の光応答の特性に大きく寄与するのではないかと考えられます。そこで深田研究室の白木・小島らは、視細胞の光応答特性に対するオプシンキナーゼの寄与を明らかにするため、オーストラリア国立大学のTrevor Lamb教授らとの共同研究により、錐体オプシンキナーゼGRK7-1を桿体に異所発現するトランスジェニック系統(GRK7-tg)の光応答を解析しました。単一細胞レベルでの桿体の光応答を測定した結果、GRK7-tg桿体では光感度が約1/8に低下していることが分かりました(図2)。さらに、個体レベルでの視覚機能を視覚性眼球運動(optokinetic response, OKR)を用いて解析したところ、OKRにおける眼球追随速度の光強度依存性が、GRK7-tg個体ではコントロール個体と比較してより明るい方向へとシフトしていることを見出しました(図3)。つまり、錐体オプシンキナーゼGRK7を桿体に異所発現し、桿体のGRK活性を大きく亢進させることにより、桿体の光感度が低下することが分かりました。このことから、視細胞におけるGRK活性の大きさが、桿体と錐体の光感度の違いに寄与することが強く示唆されました。