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JNKは外界の光情報を概日時計へと伝達する新規時計キナーゼである

(EMBO Rep., 13, 455-61, 2012)

 地球に棲息する多くの生物は内因性の計時システムとして概日時計を持ち、光などの外界のシグナルを時刻情報とした入力系を兼ね備えることにより、昼と夜とのダイナミックな環境変化に適応しています。この自律的な発振機構は細胞一つ一つに存在し、時計遺伝子の転写翻訳を介したネガティブフィードバックループが約24時間で1周しています。この分子振動において、BMAL1とCLOCKという転写因子が中心的な役割を担っており、これらの転写活性はリン酸化などの翻訳後修飾によって時刻依存的に制御されています。深田研究室の吉種らは、BMAL1とCLOCKをリン酸化する責任酵素としてc-Jun N-terminal kinase (JNK)を同定しました。細胞内のJNKが浸透圧刺激により活性化されるとBMAL1とCLOCKのリン酸化レベルは亢進し(図1a)、試験管内での直接的なリン酸化も確認されました。一方、JNKに対する阻害剤やRNAiによる機能阻害は、BMAL1のリン酸化を低下させる(図1b)とともに、細胞時計を長周期化することが判明しました。さらに、JNK3KOマウスの行動解析を行った結果、恒暗条件下での行動周期が長い(KO; 24.1 ± 0.1 hr, WT; 23.6 ± 0.2 hr)ことに加えて、夜間の光照射に伴う位相シフトが大きく阻害されることが判明しました。恒明条件では、マウスはアショフの経験則に従って光照度依存的に行動周期が長くなることが知られていますが、このKOマウスはアショフの経験則に従わないことを見出しました(図2)。このように、JNKは外界の光情報をBMAL1-CLOCK複合体にリン酸化シグナルとして伝達することにより、概日時計の周期や位相を決定すると考えられます(図3)。