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CLOCK-controlled polyphonic regulations of circadian rhythms through canonical and non-canonical E-boxes.

(Molecular and Cellular Biology, 34(10), 1776-1787, 2014)

東京大学大学院理学系研究科の吉種光助教、寺嶋秀騎大学院生、深田吉孝教授らの研究グループは、同大学院新領域創成科学研究科の尾崎遼大学院生および同大気海洋研究所の岩崎渉講師の研究グループらと共同で、概日時計において中心的な役割を担う転写因子CLOCKが生体内で実際に結合しているDNA領域を網羅的に同定しました。また、CLOCKのDNA結合リズムが約24時間周期の転写産物リズムを生み出すネットワークとして、CLOCKが制御する転写因子やmiRNAによる間接的な発現制御の重要性を示しました。さらに、新しいバイオインフォマティクス手法MOCCSを開発し、CLOCKが認識しているDNA配列を決定しました。MOCCSは様々なDNA結合タンパク質の認識塩基配列の決定に応用が期待できます。

Hikari Yoshitane, Haruka Ozaki, Hideki Terajima, Ngoc-Hien Du, Yutaka Suzuki, Taihei Fujimori, Naoki Kosaka, Shigeki Shimba, Sumio Sugano, Toshihisa Takagi, Wataru Iwasaki, and Yoshitaka Fukada
CLOCK-controlled polyphonic regulations of circadian rhythms through canonical and non-canonical E-boxes.
Molecular and Cellular Biology, 34(10), 1776-1787 (2014)

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【研究内容】

 人間の睡眠覚醒リズムに代表されるように、数多くの生理現象が約24時間周期のリズムを刻んでいる。この「サーカディアンリズム」は体内で自律的に振動する概日時計により生み出されているが、近年の研究によりその分子機構が少しずつ解き明かされてきた。時計タンパク質CLOCKとBMAL1が複合体を形成してDNAに結合することにより、近傍の遺伝子の転写が促進される。この標的遺伝子の中にはPerCryなどの時計遺伝子が含まれており、転写翻訳されたPERやCRYは核内でCLOCK-BMAL1と直接相互作用することにより自らの転写を抑制する。この負のフィードバックループが約24時間で1周することにより、概日時計は振動する。一方で、この概日時計の制御下には数千の遺伝子が存在すると言われており、概日時計の破綻は睡眠障害のみならず、癌、肥満、脳機能障害など多岐にわたる異常を引き起こす。そのため、概日時計と疾病とを結ぶ分子経路を明らかにすることは、新たな創薬ターゲットの発掘につながることから、医学的な観点からも注目されている。

 このような背景から、本研究グループは時計タンパク質CLOCKの標的遺伝子をゲノムワイドに探索した。まず、CLOCKに対する自作抗体(Yoshitane et al., 2009)を用いてCLOCKが結合しているDNA領域を超並列シーケンサーによって決定するChIP-Seq解析(用語解説)を行った。その結果、マウス肝臓においてCLOCKが生体内で結合している約8,000のDNA領域を決定した(図1)。このデータを本研究グループが開発した新しいバイオインフォマティクス手法MOCCS (motif centrality analysis of ChIP-Seq; 詳しくはこちら) によって解析した結果、CLOCKが認識するDNA配列を網羅的かつ正確に抽出することに成功した。さらに、ルシフェラーゼアッセイ(用語解説)による確認実験を行うことにより、CLOCKはこれまで報告されていた典型的なE-box (CACGTG)配列に加えて、CACGNG、CACGTT、CATG[T/C]Gといった非典型的な配列を認識していることが判明した(図3)。以上の解析により、時計タンパク質CLOCKがゲノムワイドにどのDNA配列を認識して標的遺伝子の転写を制御しているのか、その全体像を記述することができた。

 次のステップとして、CLOCKのリズミックなDNA結合が遺伝子発現のリズムにどのように影響しているかを調べるため、全転写産物(mRNAおよびsmall RNA)の発現プロファイル決定するRNA-Seq解析を行った。その結果、マウス肝臓に発現している約10,000遺伝子のうち約10%がリズミックに発現していることが判明した(図2)。しかし驚いたことに、これらリズミックに発現している遺伝子のうち近傍にCLOCKの結合が観察された遺伝子はわずか30%程度であった。この結果は、CLOCKによる直接的な制御だけではなく、間接的な制御の重要性を示唆している。そこで、CLOCKによる間接的制御として2つの可能性を検討した。ひとつは、リズミックな転写因子がその転写因子のターゲット遺伝子のリズミックな発現を制御している可能性である。実際、CLOCKの標的遺伝子には転写因子が多く含まれており、例えば、KLF (Krüppel-like factors)ファミリーのグループ3に属する転写因子群は、近傍にCLOCKの結合が観察され、リズミックに発現していた。もうひとつは、miRNAがそのターゲット遺伝子をリズミックにサイレンシングする可能性である。そこで、リズミックな発現が観察された複数のmiRNAを解析した結果、例えば、miR802はその前駆体がCLOCKによりリズミックに転写され、時刻依存的な遺伝子サイレンシングを行うことにより、その標的遺伝子に逆位相のリズムを生み出すことを明らかにした。

 以上の結果から、CLOCKはCACGTGのみならずCACGNG、CACGTT、CATG[T/C]Gといった非典型的なE-box配列を認識して転写リズムを生み出し、さらに転写因子やmiRNAを介した間接的な制御によりゲノムワイドな転写産物リズムを生み出していると考えられる(図3)。昼夜を問わず明かりが消えない現代社会において、交代勤務や時差ぼけに伴う体内時計の異常は睡眠障害のみならず多くの現代病の根源であると考えられている。本研究で得られた莫大なデータをもとに、遺伝子レベルでのリズムが生体において生理的な機能リズムへと伝わる仕組みの理解が進むことが期待される。

【用語解説】

クロマチン免疫沈降シーケンシング(ChIP-Seq)
DNA結合タンパク質(今回の場合はCLOCK)に対する抗体を用いて免疫沈降を行い、タンパク質と結合しているDNA断片を濃縮し、DNAシーケンサーを用いて配列を決定する。これにより、目的のタンパク質が結合している配列を網羅的に決定することができる。

ルシフェラーゼアッセイ ルシフェラーゼ発現ベクターに目的のDNA配列(今回の場合はE-box配列)を挿入し、細胞に発現させてルシフェラーゼの発現量を生物発光として測定する。同時に転写因子など(今回の場合はCLOCKとBMAL1)を共発現させることにより、挿入DNA配列が転写因子による制御を受けるかを調べることができる。